マイスキップ新春号コラムに「クイーンを高校生のころよく読んでいた」と書いていたが、記憶違いがあったようで、Yの悲劇の初読は中学2年のときだった。親しかった同級生S君が松本清張「Dの複合」を今読んでいるという話をしたのに対し自分はいまYの悲劇だと、出だしのところをちょっと説明したというそんなささいな記憶が蘇ってきたのだ。部分的すぎる記憶は意外と鮮明だったけれど、本のほうはすっかり赤茶けていて、デザインが好きだったカバーも相当に傷んでいる。
詩人・田村隆一が訳したこの角川文庫版がよくて、当時は(いまもおそらくそうだろうけれど)、クイーンの代表作は出版各社から訳者を違えて出されていたから、太陽堂書店に時々行っては早川書房やら創元推理文庫やらと訳文を比較して楽しんでいたことがある。詩とか英文とか文学とか中学生時分に興味はまったくなかったから今からすると不思議だけれど、田村隆一の訳し方には詩人らしい格好良さがあって、断然いいと思っていたのだった。
いまは新訳になっているからこの田村隆一翻訳版は絶版で、かつカバーデザインもちょっと薄っぺらく変わってしまったが、越前敏弥が担ったその新訳の評判がいいらしい。そう耳にしたから、新訳への興味もあって再度「Xの悲劇
Xの悲劇/訳:越前敏弥 (角川文庫)