■映画『ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密』予告編:
https://www.youtube.com/watch?v=L7IzrgeTWbE
推理モノの場合、大きくタイプで分けるとフーダニット(誰が犯人か?)物と倒叙物との二つがある。フーダニットは大勢の登場人物の中から「あなたが犯人だ!」と探偵が告げてクライマックスを迎えるのに対し、刑事コロンボや、それへのオマージュで制作された古畑任三郎で代表される倒叙物のほうは最初に犯人と犯行トリックが明示されるから、犯人は誰かといった興味はそもそもなく、醍醐味はいかに探偵役が真相に迫るかという点になる。
と一般論を示したところでいちおう記しておくと、ネタバレにならない程度にまぁここまでなら大丈夫ではということで以下書くことにするが、フーダニットか倒叙物かといった構成面の妙にも触れるから、これから観るつもりで一切合切事前情報NGのかたは読みすすめずここで留めていてください。
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で、二つのパターンのうちこの「ナイブズ・アウト」はどちらなのかというと、舞台となる洋館に集まった家族はそれぞれ怪しさ満点で、クローズドサークルの正統派推理小説の如くフーダニットの装いでスタートするからてっきりそうだとばかり見出したら、途中でいきなり倒叙式にと変わり、犯人と犯行のあらまし、トリックが事件当夜の出来事として再現呈示される。序盤での突然の犯人呈示に驚くけれど、また再現映像だからそこには嘘はないだろうけれど、でも見えないところに何かおかしいところあるよねと謎を残しながらの進行で、最後に一捻りありそうだと予感させる。当然一捻りあって結末を迎えるのだが、つまりはフーダニットと倒叙物とがミックスされた新しいパターンとなるだろうか。ついでに書けば、カーチェイスといったサスペンス要素もミックスされる。
テンポがとにかくいいから楽しめる。とかく推理モノは、特にフーダニットの場合は登場人物の設定や背景を人数分示さなくてはならず、しかも(犯罪と無関係のひとも)怪しそうにそれらしく描写するから事件発生前の前段の時間が長くて閉口することがあるが、その点の処理は実にうまいと思う。映画冒頭でもう亡くなっていて「自殺か他殺か」の事件性を問うところから始まり、そう苦労せずに話に入っていける。
これはコロンボとか、三谷幸喜の古畑任三郎が好きな人だとより嵌るだろうななんて思いながら見ていると、登場人物のひとり、重要な役どころである女性看護師は「嘘をつくとゲロを吐く」という体質であると明らかにされる。つまり彼女は嘘がつけず、あるいは嘘を言っても(視聴者にも劇中の探偵にも)バレてしまうという設定である。最初のうちに明示される設定だから(ネタバレというより)物語の前提で、三谷幸喜好きはまた更に嵌りそうだけれど、氏がやりそうなコメディみたいだ。
広告には「100%予測不可能! ネタバレ厳禁!!!」と、ネタバレ厳禁にびっくりマークが3つも付くが、結論から言えば、100%予測不可能ってのはちょっと盛ってるなという印象。 楽しめる一方で、例えばミステリーマニアだとある程度の予測はつきそうな気も、しないではない。まぁでもそれはネガテイブに捉えることでもなく、ここではエンターテイメントとして「楽しめる」ことが肝要なのだろう。
実をいえば物語の途中のシーンで「ん?でもあれは?」となんとはなしに思ったことがあって、あることがちょっと頭の隅にひっかかっていた。ひっかかりといってもテンポのよい展開の前にほぼスルーして見ていたのだが、最後の最後で解決につながる伏線だったとわかった。それは何と書くと完全ネタバレだから書かないけれど、うまくできているもので。