
階を隔ててのW個展企画。1階のほうは「高窓の気配」と称した写真をSNS上での感想に対して載せたりしていたので、ここでは2階の巳巳展について雑感的に記そうと思う。上の画像も巳巳展から。
その展示の内容を概略で言うならば、前にも記しているが「ここ松之山に多かった地すべり災害に着想を得て、 昔、地すべりを止めようと自ら人柱になったという杢兵衛という村人の伝説をモチーフに作品を構築」したとなる。もっと極端に簡潔にすれば文字による作品。しかしここで気に留めておきたいと思うことをひとつ書くなら、建物にそもそもある土壁のことだろうか。 いみじくも開催前に「作品設営作業時の風景」としてアップした際には以下のように記していた。再掲する。
もともと古民家だから土壁以外に押し入れといったものもあるし、ギャラリー施設としてリノベーションされるときには板を貼り、展示しやすいように新設された壁面もあったが、作家は土壁以外を今回新たな黒い壁で覆った
黒い壁で覆うことは見た目よりもずっと大掛かりな作業で、3日間の現地制作のうち2/3以上の時間が費やされたが、一方、逆説的に言うなら、土壁に対しては何か平面作品を掛けるでもなくむしろそれを避けるかのように、作家は何ひとつ手をかけてはいない。
土壁は自らヒビが入ることで外力に抗するもの、である。言い換えれば外力に対しヒビで力を逃がすことで建物自体が守られる。 であるならばそこに無数に入っているヒビは、築110年の間には昭和37年の松之山地すべり大災害もあり、他相当の“地すべりの記憶”を留めてると取ることも出来そうだ。 押し入れの襖のように個展空間から消されることがなく、土壁だけそのまま残したことには意味があって、外形的には作家は何もしてないとなるがその存在を「何もしない」ことで逆に浮かび上がらせ、ヒビそのものが自ずと持ち、抱えている地すべりの積年の記憶をも作品に取り込んでいる。重層的で、わたしはそんな捉え方をして見ている。

展覧会website;https://atelier-zen.jp/mimitoya.html
● 過去記事は、カテゴリー “ギャラリー湯山「巳巳展×外山文彦展」”を参照
ついでに「土壁」関連でもう一つ書くと、

こちらの画像は1階の外山文彦展のほう、座敷の壁。ヒビもあるのだが、下部には山脈のようなかたちの分割みたいな、何やらモヨウ化された跡。何かの補修跡なのかもしれないが、よくわからない。けどそんなモヨウは面白くもある。
この座敷の「床の間」の土壁にはもっと存在感のある“モヨウ”があるのだが、そこではそのモヨウを作品に取り込み「床の間」全体を作品としている。もともとそこにある土壁に対し巳巳は土壁が持っているであろうその場所の記憶を、外山は場を変容させる要素として、作品に取り込んでいるというわけだ。
事前の展覧会案内には、2作家のアプローチの違いとして「外山は場所の構造や表象に対応する作品をつくり 巳巳は場所の歴史や意味にこだわる作品をつくる」と書いている。数日前に「外部建具の2作家の扱い方(の差異)」から本展を論じたレビューを紹介したが、こちらもそうした差異の(面白さの)一例なのかもしれない。