同展は、屋外展示スペース(&休憩コーナー)を折り返し地点のようにして前半を主に立体、後半を主に平面で構成されていて、屋外展示からの後半ゾーンは写真撮影可となっている。撮影可となるとスマホ片手にひたすら撮りまくるひとも多いけれど、私はあんまり撮らずに数枚だけでその1枚が上。
屏風状に置かれた大きなキャンバスに点をうつように、一点だけグレー系のグラデーションで塗られている「対話」という作品(の一角)で、その“点”を 近くに寄ってよく見ようとしたら背後上部スポットライトからの自分の影が入り込んできたというシーン。偶然に現れたそのさまを面白く思ってここは密かな“コラボレーション”を試みようと瞬時に判断、撮ってみたものとなる。スポットライトの具合は思いがけず影のほうも、ちょっとグラデーションがかかったような感じでコラボレーションを意識したかのようだ。
この美術館でかつて開催されたジャコメッティ展でもそういえば、撮影可と言われた場所では誰も撮らないような「足元と影」を撮っていたなと思い出す。別に天邪鬼でもないけれどそうしたシャッターチャンスを狙うのは癖のようか。 ちなみにこの「対話」という作品は、美術手帖のサイトでなされているレポートに作品画像が掲載されていて、サイト上で14枚目に全体像の画像がある。どんな作品なのかを知りたいかたはそちらを参照のほど。
さてその美術手帖のレポートには「展示構成も李が自ら考案」とあり、展覧会カタログの主催者挨拶ではなぜか触れられていなかったその点に、 なるほどなと思った。例えば順路最後は“一点”のウォールペインティングで締めるかたちだったが同時にその布石も構成でうたれていて、それは作家自身でなければ出来ないこと。つまるところ李禹煥ワールドを堪能したというわけだ。
そう書いていたら、横浜美術館で嘗て開催された「斎藤義重による斎藤義重展」が頭に浮かんできた。「作家自身が展示構成する」ことは同じようだが、こちらはタイトルからそれを明確に示している。開催は1993年、作家88歳のとき。李氏の年齢と近いと気付いた。
もう30年も前になる同展カタログはだいぶ赤茶けていて、それを久しぶりに取り出してきた。カタログとしたらまず制作期間が取れないから相当に異例なことになるが、その中には「プロセス」と称し、88歳の作家本人が指示を出している展示作業の光景が20ページに渡り収録されている。そんなところを改めて見直した。30年経ち異例さは貴重さにつながるよう。

