
その「音響詩/巳巳」なるパフォーマンス。案内リーフレットには会場は「ゆずりは/ルルド屋上」とあり最初いま一つ意味がのみこめなかったが、ゆずりはというのはどうやら地区名みたいで、四万温泉の中の「ゆずりは」ゾーンに建つ「ルルド」(という施設の)屋上だと後から理解した。
ルルドの正式名称はスパゲストハウス ルルド(SPA GUEST HOUSE LULUD)となるようで、あぁ温泉入浴施設の屋上を使うのね程度の認識で、建築や施設の予備知識を何ら持たずに向かった。で、先に書いてしまえば、「屋上」というのは感覚的にはまぁわかりやすいなとは思ったけれど、建築の用語からすれば異なるもの。上の画像は開演40分前くらいのリハーサル的思考中(公演に向けて集中の最中)のものだが、屋根もしっかり付いているしどうみても屋上ではない。
このルルドは、倒産した温泉旅館をリノベーションしたもので、クラウドファンディングでの資金調達もしながら2020年末にオープンした新しい施設だという。なるほどスタイリッシュにまとめられているが、そこで気付いてわかったのは元々が鉄筋コンクリート造5階建ての旅館だったのを改装し新たに運営する際には4階建ての施設にしたのだということ。
5階部分は仕上げ材も取っ払い(新しい施設でこの階は使わないからエレベーターによる導線も無くし)改装もせずにそのまま放置に見える。そうした、外からは見えることのない廃墟のようなスペースを、作家の飯沢康輔氏の発想が大きいのかもしれないが「温泉郷クラフトシアター」での絵画展会場(飯沢康輔展)&パフォーマンス会場にしたというわけだ。

ルルドは表向き4階建てだから、エレベーターは4階で降りるが、降りるとその目前に(ふだんは開けられることのおそらく無い)扉が開けられていて、その先の階段にと誘われる。
気分は、まさに屋上に上がる感覚である。

弥彦・野外アート展でも初期のころに温泉旅館内に作品を展示する企画をたてたことがあったし、武蔵野美大の学生が岩室温泉の各旅館に作品を展示するアートイベントをしたことがあったが、そういうときの来場者の面白さは「(高級旅館など)ふだん入れないところにも、アート鑑賞を旗印に入れる」ことがあるけれど、今回のルルドの場合は、宿泊代を払った人であっても入れないところに入れちゃうという、さらなるプラス要素が加わっているといえる。
行く前は、先日まで一緒に展覧会をやっていたからと「行ってきました」程度に画像を簡単に載せようと思っていたが、一週前の旧廣盛酒造と同じで建築の特徴がありすぎて、そんなかんなでまた思いがけず長文blogになってしまった。

ついでだからもう一つだけ書くことにすると、屋上空間(=カウントされない5階の空間)でわたし的にツボだったのは、コンクリート躯体に「通り芯」だとかの嘗て施工時のメモが現わしになっている(↑)こともあったけれど、一番は下の図。空中に浮いた(かのように見える)消火栓ボックスである。

コンクリート壁から5~60㎝ほど前面に出ていて、6本の鉄の棒で壁と床から支えが取られているが棒は細いものだから、意味なく飛び出て浮いているように見える。
建築図面に慣れていれば容易に想像つくが、この場合内部の壁面ボードは柱面に合わせて設けられるから、消火栓ボックスはその(設けられるはずだった)位置で自立している。壁面の化粧石膏ボードがあれば見た目に何の変哲も無いのだけれどそれは壊されて再生もされていないから、浮いた消火栓ボックスになったというわけだ。

巳巳さん公演中
飯沢康輔さんの絵画は大きなダンボールに描かれ、この空間に見事にマッチしていた。
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