十日町市松代の古民家カフェで伊藤希代子さんが水彩画を展示していることから、松之山のギャラリー湯山に行った帰路に立ち寄ってみる。
今日は祝日の、それも好天の文化の日。人気のカフェだから、そんな絶好の行楽日和のときなんか混雑で入れないかもという“ヨミ”もあったものの、行ける日が今日しかないからと、大箱のカフェではあるし時間を相当ずらして行けばなんとかなるかなという甘いヨミにと結びつけたが、それはやっぱり甘かったよう。着いたら入店待ちのひともけっこう出ていてスタッフに尋ねると時間もかかりそうとあり、ゆっくりコーヒー飲んで楽しむのは時間的に厳しいとあいにく断念した。でもスタッフとのやりとりの際、いま水彩画飾られてるんですよねと話したら、店舗奥から展覧会のリーフレットを丁寧にわざわざ持ってきてくれ、1部くださった。
松代まで車を走らせているとき、伊藤さんは(私のキュレーションで)約20年前におこなった「クライズム」なる現代美術三人展の参加作家だったことが頭に浮かび、今から振り返るに展覧会としてクォリティの高さや意図の面白さに際立ちがあったよなと思い返していたのだが、いただいたリーフレットにも作家経歴としてクライズム出展とあるのを見つける。(企画者としても)感慨深く眺めたわけだ。
クライズムについては佐藤秀治氏が新潟日報紙に論評を書いていて、そのレビューを以下載せることにした。文中には「本県の現代美術の草分け的作家二人に生きのいい若手を加え」と企画のキーのひとつが書かれているが、「生きのいい若手」というのが伊藤さんである。
● 物語の景色から 伊藤希代子水彩画展
~金野とよ子『古民家のひみつ』に寄せて~
10月20日(木)~11月6日(日)/会場:カールベンクス古民家カフェ「澁い-SHIBUI-」
[論評] 蔵ISM・クライズム~蔵の中での現代アート (企画:アトリエZen)
評:佐藤秀治 (美術家)
●2004年9月14日 新潟日報文化欄掲載
長岡市ギャラリー沙蔵にて2004年9月5日~15日に開催
伊藤希代子・関根哲男・前山忠のジョイントを仕組んだのは、頭文字のI・S・M欲しさではなく、選定後のひらめきからで、新たな意味も加わり企画の面白みを増した。近年では広義の現代美術が市民権を獲得しつつある中、真剣に同時代表現を思考する作家たちに出会いを提供し、見えにくいこうした動向を顕微化していこうとする企画展「ART POINTSシリーズ」の第二弾である。
今回は本県の現代美術の草分け的作家二人に生きのいい若手を加え、どんな
関根は昨年来、既に追究し終わったと思われた「原生」シリーズに再構築を試みていたが、その予想を覆し、二百号余の大パネルに迷いもなく完成度を凝縮して新境地を見せている。一方、蔵の両隅に設置することを前提とした前山の「視界1」・「視界2」は、高さ三メートルの巨大な立体作品である。近年は野外・室内を通して、鏡や自然石などの組み合わせからシンプルさに移行している。よりストレートであるとともに「意味の重層化」を獲得してのことで、コーナーに置かれた木枠の味わいは現場の生体験に委ねることが賢明である。灯り作家という印象の伊藤は、今回も虚実を織り交ぜ空間演出を試みているが、特に壁一面に置かれた前後を削ぎ落としたローソク群は時間と記憶と鎮魂を見事に紡ぎ出している。今後も追体験したい三作家の競演である。
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