その2003年の展覧会は、2004年の「クライズム」展と同様に「蔵のなかでの現代美術」を基本コンセプトとしたもの。 その頃長岡に出来た蔵ギャラリー(ギャラリー沙蔵)を使うということ、数名の新潟県内在住作家の作品で展を構成することも共通するが、作家選定の意図は異なる。
2003年の「蔵・展」のほうは5人展という形態で、うち3人の男性は現代美術のフィールドで活動していた作家だったが、女性お二人のほうは(現代美術が市民権を得たいまだと捉え方も随分変化があると思うけれど)当時だと特に現代美術の枠では捉えられることのなかった、工芸作家の山田さんとイラストレーションの若手作家トミナガさん。いずれもふだんの作風を見ていて、現代的なセンスや空間への意識も高くて面白いと思っていたから、ぜひ一緒にやろうと発案した企画となる。
下記レビューは新潟日報文化欄に掲載されたもので紙上では「見る楽しみ あらためて提示」と見出しが付けられている。
[論評] 蔵・展―5人の手法 (企画:アトリエZen)
評:佐藤秀治 (美術家)
●2003年9月1日 新潟日報文化欄掲載
長岡市ギャラリー沙蔵にて2003年8月29日~9月3日に開催
会場は大正時代の蔵をリニューアルしたギャラリーである。喫茶もあり、開廊わずか1年半で評判も高い。案内によると今回は、「同時代表現を思考する作家シリーズ」の初回とある。当然5人の仕事を並べて紹介するのでは意味がない。仕掛けた「展」そのものもひとつの表現として問いたいらしい。「展」全体で、一方個の作品として、アートをどのように見せていくかということは作家たちの命題でもある。
事前に5人の仕事をリサーチして、「単純に1掛ける5にあらず」を構築する。こうした働きかけがなければ、一堂に会することもなかった。ミスマッチとならず、他を融合してしまうのは現代アートの特質でもある。
選抜された5人はそれぞれ違う仕事でその期待に応えている。自然界にない大きな雲形は彩色とともに濃密な自然の香りを発している佐藤昭久。赤い花をキーポイントに透明感あふれる物語を語るトミナガアヤコ。ストライプのカードで壁面にレイアウトする外山文彦。植物の形の残像を隠すことで逆に意識化を図る中嶋均。自然木に鮮やかな布たちを巻き付け、赤い糸と円筒ミラー、織布のインスタレーションの山田初枝。5人が織りなす表現が、蔵の中の空気を温かく重厚なものに変化させている。見ることの新しい楽しみを、鑑賞者に提示しているような展覧会である。
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