虚と実のカンバス間を往来 ~外山文彦展CANVAS
評:佐藤秀治 (美術家)
●2008年7月11日 新潟日報文化欄掲載
「新しい表現」に携わることは、新作での発表が常であると思われ、そこに顕著な変容がつかみづらく期待を裏切られたと思うことがある。つまりせっかちな人もいればゆったりと歩みをすすめる人もいるのに、鑑賞者は依然として高所から作品を吟味すること、「いい悪いの判断」に執拗に固執することがある。作者の求める方向や課題、こころの揺れに波長を合わせ謙虚に読み取ってみたいものである。
外山作品の印象は、ぶれない仕事の継続である。一見しただけでは前作との異なりを見いだせないくらいその具体的変化は薄い。作者の関心はそこにはないということである。作品構造は、カンバスの裏地を選び支持体としていること。さらに塗り込まずに生地を見せるところと満遍なく彩色した二種二面の分割再構成画面である。常に複合面であるということ。一作品はおおむね幾つかの単体カンバスでの組み合わせとなっている。この点だけでも数年間変わらず取り続けてきたスタイルである。面白いのは異なる面の主従の関係を決めないこと、観る側にそれを委ねているところである。
「モーニングス」シリーズを例にすると、四つの単体から構成されていて、その一部は同型を反転し再構成していることに容易に気付かせられるのである。そこでいや応なく自分の強い意識でさらに元に戻して見ようと試みる。作者が提供した実のカンバスと仕組んだ虚のカンバスの間を往来することになる。今作品の作者の意図は他に二点仕組まれている。会場でその揺れを読み取っていただきたい。

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