論考の対象は「原生」シリーズで知られる柏崎在住現代美術作家の個展。会場のスペース的な制約や、(当時作家が好んで使ったゴム等の)匂いを発する作品がNGなカフェ内展示ということもあり、ここでの個展は(原生シリーズではなく)紙作品をフレームに入れての作品群となる。「戯(ざれ)」と題しての、写真を基にしてのミクストメディア。
大作の、力で迫り圧倒するような、そんな作品発表の多い作家に対して、会場スペースの制約(言い換えると=特性)は逆に、今からすると珍しさ(=貴重さ)も生むかもしれない。
写真を素地に戯れ事の世界 ~関根哲男展
評:佐藤秀治(美術家)
●2002年10月1日 新潟日報文化欄 掲載
長岡市・カフェ&ギャラリーZenにて2002年9月24日~10月6日に開催
シリーズ「原生」で、新境地を確立した関根の仕事は、特大の画面に密度の高い作り手の行為を、集積してみせることであった。その重厚な表層が奏でる旋律は人の営みの崇高さとともに見る人を魅了した。また関根は素材や支持体に重きをおき、ゴムや化繊を巧みに扱う作家である。際立ちは、気が遠くなるほどの痕跡の凄まじさである。関根の固有な世界は、まさに「表現が思考を超えた瞬間」を明確に提示している。
思考と表現は、アーティストにとって大きな命題であり、「常に思考無くして、表現は生まれ得ない」のである。現代美術の作家たちは、日常の中で故意に、ものと戯れ、また敏感に事象に反応し、純粋な思考の遊戯を楽しんでいるのである。
それは作家たちのプライベートに属する営みで、表現の源流ともいえるものである。こうした反復の中で、物事の在り方や関係などを吟味、思考し、新たな表現の意味や価値を探っているのである。鍛錬や修練とは異なり、余興、即興芸に似た味わいを含んでいる。
今回、関根は身辺を見渡して写真を撮り、それを作品の素地として、後にアクリル絵の具でドローイングを施した非日常的作品=写真=を出品している。タイトルに「戯(ざれ)」の一文字を充て、大・小合わせて34点。知られざる作家の創作意欲をかき立てるエキスを探し出し味わってほしい。
戯 2002
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